来 歴

薔薇色の夜明け


運命はいつもはげしく私を招き
彼を招いたのに
人の掟はそれよりもきびしく
私と彼の胸に十年やさしい花が咲かなかつた
彼は自由という孤独をえらび
私は華やかで冷淡な群衆の一人となつて
あのすみれ色のたそがれをさかいに互に遠く訣別したのだ

彼の地図は彼の色でぬりつぶされたが
その色は明るくない
彼の国には戦いもないのに旗がひるがえつている
彼の町には眠る人もないのに家がたてこんでいる
彼はくらがりの中でもたくましくみのつて行くので
彼の夜にいつわりの育ついとまはなかつた

私の財産には高すぎる栄誉が冠せられたが
他人がほんの少しだけ
自分より不幸であれというのぞみや
他愛のないうわさ話のとびかう路地がみえすぎるので
私は昼を信じない
私の昼に安住の土地はなかつた
眠りからさめた彼が私と
或いは私が彼と
再び出会うのにふさわしいのは
底ぬけの昼だろうか
それともおとし穴のように
人をたぶらかす夜だろうか
けれど今
昼は内しよごとのように素通りし
夜は途方もない大望ぐるみ
昏迷の中へ落ちてしまつたし
私たちは不明の昨日から不明の未来へ
歩き出すほかはない
私たちの生が大いなる平和にかざられたためしはない
せめて私たちは
互の手をとり一つかみの罪をわかちあいたいのだ
おずおずとひらいた指を染める
とげだらけの薔薇にもう十年遅れてひらき
私たちの痼疾をいやすかもしれない
薔薇色の夜明けがあるならば私たちは
その遠い未来まで罰せられてもいいのだ

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